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第18話 となりの芝生。

数日前のこと。

「一般バンドの本間市民吹奏楽団の定期演奏会のチケットが1000円のところを特別に500円で買えるので、行きたい人は後で申し出てください」

と、顧問の野村先生がおっしゃったのです。
ホンマ市吹は毎年全国に行くか行かないかのレベルの吹奏楽団で、数年に一度は全国に出場しています。
身近でこのレベルの演奏が500円で聴けるのはなかなか貴重です。
というわけでトランペットパートは(パーリーのシオさんによって)強制的に行くことになりました。
でもまぁ僕も行こうか、と思ってましたし。
去年まで隣の市にいたユリはキラキラと目を輝かせていました。
ずっとナマで聴いてみたかったのがついに聴ける!って。
やっぱり誰だって、上手い演奏聴きたいもんです。

日曜日。
午前の休日練習を終えた僕たちは楽器を片付け、各自昼食をとり、行く人達がそれぞれ固まって会場の県民会館に向かいました。
あ、ちなみにこういう場合多分自転車がメインになると思うんですが、他の人の迷惑になるので広がって走るのはダメ、ゼッタイ。
広がらないと話せないけどダメ、ゼッタイ。
一列に並びましょうね!
う~ん、4月の中旬、お花見できそうなとても心地よい気温。
ぽかぽか。
天気もいいし、日向ぼっこしたら気持ちよさそう。
あ、やべ。このままじゃ演奏会寝ちまう・・・。
いい音楽って心地いいから結構眠くなっちゃうときあるんすよね。
ん~、暖かくて…って!
こんな風に意識を朦朧とさせながら自転車走らせるのもダメ、ゼッタイ。

県民会館に着いた僕たちは駐輪場に自転車を置き、入り口に向かっていきました。

「やっぱり他校の人たちもけっこういますねぇ」

とユリは周りをキョロキョロ見回します。

「そりゃあ、全国レベルの演奏だからねぇ、みんな見に来るでしょ!」

シオさんがユリに話しかけていると・・・

「レイジ!!!」

突然どこかから僕を呼ぶ声。
僕以外も「?」な感じでキョロキョロ。
すると向こうから他校の生徒が走ってきました。
あ、あれは・・・。

「レーイジ!!久しぶりー!やっぱ西校でも吹奏楽やってたんだね~、ペット?」

あー、この元気ッ娘は間違いなく(てか目の前にして間違いも糞もないのだが)中学生時代のペットパートの同期、松中渚(まつなか なぎさ)だ。
ナギサは結構頭も良かったので、ここら辺は一番偏差値が高い本間高校に行った。
急なことでびっくりしている僕の後ろでは、「なんだあのかわいい娘は」だの「レイジも隅に置けないわ」だの「ふざけんな(明らかにユキヒト)」だの勝手なことをダベるオーディエンス。

「な、ナギサもこれ聴きにきてたんか、てかお前もペットやってんのな」

「うん続けてる!私達はペットパートみんなで来たんだよ」

すると後ろからクイクイと僕の服を引っ張る人が…カナさん。

「(小声で主にニヤニヤしながら)レイジ、この娘だぁれ?彼女?」

「ん、あ~ぁ~、えーっとこいつは俺の中学時代同学年でいっしょにトランペットやってて、今は本間高校のペットやってるナギサっす」

「んまー!ウチのレイジが昔お世話になりまして!ありがとうございます!」

「何その保護者目線!?」

僕がナギサの紹介をすると、ペットパートのメンバーがぞろぞろとこっちに集まってきました。

「あ、えっとこの人達が今のホン西のペットパートな」

「あ、そうなんですか~、わたしレイジと同級生で中学時代同じパートでした、松中渚です」

深々とお辞儀するナギサ。
それを見たカナさんたちはまた「まぁいい娘」だの「レイジと違って出来てるわ」だのと。
だからなんすかその保護者目線。
その後せっかくなんでこっちのパートメンバーを3年生から順に紹介。
シオさん、ミズホさん、カナさん、ナツキさん。

「で、最後が俺と同学年のユリ」

「えと、中島由梨です。よろしくです」

「ナギサです!よろしくね!」

同学年だからいうことか、ナギサはユリをまじまじと見てます。
興味深々。

「同い年か~、どこの中学校?」

「えっと、小原市の…」

「え、隣の市?引っ越してきたんだ?」

「うん、だからこっちのこととか全然まだわかんなくて…」

「そっか、まぁすぐに慣れると思うし、同い年の人にいろいろ聞いたりして…って正直レイジは頼りないけど!」

「なんでそこで俺が出んの!?しかも印象悪いな!」

どことなくユリは緊張しています。
別に緊張するような相手でも無いだろうに…?

「ん~。あ、すみません。そろそろ先輩んとこ戻んなきゃです。すみません、そろそろ行きます」

「おー、じゃあな。」

「あ、ナギサちゃん。ペットパートのカスミちゃんによろしく言っといて!中学でいっしょにやってたんだわ」

とシオさん。

「あ、はい。わかりました!」

「じゃあ、そろそろウチラも行こうかね」

「あ、待って!ユリちゃん!」

「?」

ユリを呼び止めたナギサは、自分のバッグをゴソゴソと探っています。
そしてやっと取り出したのは、携帯電話。

「ユリちゃん、アドレス交換しよ?」

携帯電話をずいっとユリの前に差し出すナギサ。
急のことでびっくりしているユリ。

「イヤ…かな…?」

びっくりしているユリを見て少し表情を曇らせるナギサ。
少しの間オロオロしていたユリは、にっこりと笑って、

「…うん、しよ!」

お互いにっこり。
ユリも携帯電話を取り出して、アドレス交換。
赤外線通信にちょっと手間取ってるのが見えます。
徐々にユリの緊張もほぐれていったみたいです。

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「よかったなー、ユリ。他校の友達出来て。」

その2人の光景を見てシオさんが言いました。

「隣の市から引っ越してきたから、自分の学校にも他校にも知り合い居ないもんな。今日なんか他人の知り合いとかやたらと出くわすだろうし、不安だったんだろうね」

「最初随分緊張してたもんね、戸惑ってたし」

とミズホさん。

「よかったよかった。緊張も緩んできたようだし」

「うーん…」

「カナどうした?なんか不満か?」

口を尖がらせて不満げな顔のカナさん。
しかし一瞬僕と目が合うと、その暗い表情がみるみる豹変したのです。
目元は下がり、口は緩み、頬は上がり…これは正しく…満面の笑顔(しかもどっちかっていうとニヤニヤ)。

「あたしは、ユリは拗ねてるんだと思ってたんだわ。強力な恋のラ・イ・バ・ルが登場したと思ってね!」

「どっちも違ーーーーーーーーーう!!!!!」

とはいいつつ満更でもなかったり。
まぁそりゃ~、向こうがその気なら~考えないこともないっすけど~。
あ、でも今のユリが聞いてたら、きっとなぜか俺が殴られてたんだろうな…。

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